大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成12年(ネ)3692号 判決 2000年11月30日

控訴人(原告) X1

控訴人(原告) X2

控訴人(原告) X3

右3名訴訟代理人弁護士 山本孝

被控訴人(被告) 伊藤忠ハウジング株式会社

右代表者代表取締役 A

被控訴人(被告) 伊藤忠商事株式会社

右代表者代表取締役 B

右両名訴訟代理人弁護士 豊田泰介

被控訴人(被告) 八幡物産株式会社

右代表者代表取締役 C

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは、連帯して、控訴人X1に対し、金630万円及びこれに対する平成10年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人らは、連帯して、控訴人X2に対し、金390万円及びこれに対する平成10年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人らは、連帯して、控訴人X3に対し、金390万円及びこれに対する平成10年11月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

二  被控訴人伊藤忠商事株式会社(被控訴人伊藤忠商事)及び被控訴人伊藤忠ハウジング株式会社(被控訴人伊藤忠ハウジング)

控訴棄却

第二事案の概要

一  本件は、昭和62年及び63年に訴外株式会社プリムローズカントリー倶楽部(本件ゴルフ会社)の経営するゴルフ場であるプリムローズカントリー倶楽部(本件ゴルフ倶楽部)の会員となり、あるいは平成2年に本件ゴルフ倶楽部の会員の地位を譲り受けた控訴人らが、本件ゴルフ倶楽部が開場に至らなかったために損害を被ったとして、被控訴人伊藤忠商事及び被控訴人伊藤忠ハウジングについては、いずれも昭和62年当時から本件ゴルフ倶楽部が開場できない危険性を認識し、あるいは認識し得たにもかかわらず企画協力等に関与し、被控訴人八幡物産株式会社(被控訴人八幡物産)については、会員募集業務の代行業者として、本件ゴルフ倶楽部の開場の見込みを調査することなく会員権を販売したとして、それぞれ不法行為を理由に、入会金、保証金、会員権の譲受代金相当額の賠償を求めた事案である。

原判決は、控訴人らの請求をいずれも棄却したため、控訴人らが不服を申し立てたものである。

二  右のほかの事案の概要及び当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の該当欄記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人らの当審における主張)

1 原判決は、被控訴人らが本件ゴルフ倶楽部が開場できない事態を予測していたとは認められないとしたが事実を誤認したものである。また、原判決は、被控訴人らに重大な過失がない限り民法709条の責任は生じないとするが、要件を不当に加重するものである。

被控訴人伊藤忠商事は昭和62年から本件ゴルフ会社との間で、企画協力契約を結んでいたもので、同社の自己資金が極めて乏しく、資金計画が十分でないこと、不正な利権構造を利用して許認可を取得し、埼玉県の定めるゴルフ場等造成事業指導要綱に反してまで会員募集を行った事情を当然に知っていた。被控訴人八幡物産も計画の当初から関与しており、代表者同士の交流からも右の事情を知っていた。

また、被控訴人らが、本件ゴルフ倶楽部が開場できない事態を予測しなかったとすれば過失がある。原判決が重大な過失は認められないとしたのは、民法709条の要件を不当に加重するもので誤った解釈である。

2 原判決は、被控訴人伊藤忠ハウジングの使用者責任についての判断を脱漏している。控訴人X1及び同人が代表取締役を務める訴外富士工業株式会社(富士工業)は、被控訴人伊藤忠ハウジングの従業員Dの誤った情報提供を受けて本件ゴルフ倶楽部の会員になった。また同じく同社の従業員であるEの誤った勧めで会員権を売却せず、控訴人X2及び控訴人X3は富士工業から、控訴人X1は訴外Fからそれぞれ会員権を譲り受けた。控訴人らは、被控訴人伊藤忠ハウジングの事業の執行についての右D及びEの故意又は過失に基づく行為により損害を被ったものであり、同被控訴人には民法715条により右損害を賠償すべき責任がある。

3 原判決は、本件ゴルフ倶楽部会員権について、控訴人らの本件ゴルフ会社への対応が遅れたことに関する被控訴人伊藤忠商事及び被控訴人伊藤忠ハウジングの責任に関する主張についても判断を脱漏している。被控訴人伊藤忠商事は本件ゴルフ倶楽部の計画が暗礁に乗り上げていることを認識しながら、本件ゴルフ会社が、被控訴人伊藤忠商事を企画協力者として会員募集の広告に記載するのを許し、被控訴人伊藤忠ハウジングは、その発行している情報誌の中で本件ゴルフ倶楽部を紹介して、平成5年春には開場が確実であるとの印象を控訴人らに与えた。その結果、控訴人らの本件ゴルフ会社への対応が遅れたものである。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次に記載するほか、原判決の理由記載と同一であるからこれを引用する。

1  控訴人らの当審における主張1について

本件ゴルフ倶楽部の開発の経緯については、原判決挙示の証拠及び弁論の全趣旨によれば、原判決の事実及び理由欄の第四の一2(18頁以下)記載の各事実が認められる。控訴人らは、被控訴人伊藤忠商事が昭和62年から本件ゴルフ会社との間で企画協力に関する契約を結んでいたと主張するが、そのような事実を認めうる証拠はない。また、本件全証拠によっても、控訴人らが本件ゴルフ倶楽部に入会した昭和62年あるいは会員権を譲り受けた平成2年5月ないし12月の時点において、被控訴人らが、本件ゴルフ倶楽部の開場が困難なことを認識し、あるいは認識できたと認めることはできない。控訴人らは、本件ゴルフ会社ないし本件ゴルフ倶楽部をめぐる疑惑が以前から取り沙汰されていたことを示す週刊誌の記事や町議会の議事録などを書証として提出している。しかし、それらの証拠からも被控訴人らが本件ゴルフ倶楽部の計画に以前から関与し、その開場の困難なことを認識できたものとは認められない。

そして、被控訴人伊藤忠商事は本件ゴルフ倶楽部の企画面の協力を依頼されたにすぎず、しかもその時期は平成2年10月以降であること(甲五、弁論の全趣旨)や被控訴人伊藤忠ハウジングが本件ゴルフ倶楽部の計画に直接関与したことを認めうる証拠のないこと、被控訴人八幡物産は会員募集業務の代行業者にすぎないことからすれば、被控訴人らが本件ゴルフ会社の経営実態や本件ゴルフ倶楽部の内情について調査せず、その開場が困難な状態にあることを認識できなかったとしても過失があるということはできない。

したがって、控訴人らの当審における主張1は採用できない。

2  控訴人らの当審における主張2について

控訴人らは、被控訴人伊藤忠ハウジングの従業員が、故意又は過失により、本件ゴルフ倶楽部についての誤った情報を控訴人らに提供するなどしたために、控訴人らが損害を被ったと主張する。しかし、被控訴人伊藤忠ハウジングが本件ゴルフ倶楽部の開場が困難なことを認識し、あるいは認識できたと認められないことは前述したとおりであり、その従業員である前記DやEにおいてこれを認識し、あるいは認識できたと認めうる証拠もない。したがって、その余の点について検討するまでもなく、控訴人らの当審における主張2も採用できない。

3  控訴人らの当審における主張3について

証拠(甲3、5ないし7)によれば、平成2年10月1日付の本件ゴルフ倶楽部の会員募集の広告に企画協力者として被控訴人伊藤忠商事の名前が記載され、本件ゴルフ倶楽部を紹介するパンフレットにも同様の記載のあること、平成3年に被控訴人伊藤忠ハウジングが発行した情報誌に本件ゴルフ倶楽部が紹介され、企画協力・伊藤忠商事、開場予定・平成5年春などと記載されていることが認められる。しかし、それらの記載内容から、直ちに本件ゴルフ倶楽部の開場が確実であると判断できるものではない。被控訴人伊藤忠商事や被控訴人伊藤忠ハウジングが開場に関して何らかの責任を負っているのであればともかく、そうでないのに単にゴルフ場自身の判断による開場予定を第三者に伝えただけで、ゴルフ場が開場されないことによる損害を賠償すべきであるとまでいうことはできない。

開場前のゴルフ場の会員権というものは、開場の可能性を含めて多数のリスク要因を内包した権利である。控訴人らは、そのことを承知のうえで、被控訴人らが関与する前にすでに権利を購入し、リスクをとっていたのである。被控訴人らが開場前のゴルフ会員権の販売等に関与したからといって、控訴人らのとっているリスク自体が拡大するわけではなく、控訴人らのリスク回避の可能性が減少するわけのものでもない。控訴人らの損害は、控訴人らがその判断で負っていたリスクが現実化したものにすぎないのであり、その損失の責任を他人に負わせようとする控訴人らの主張は、自己責任の原則に照らして採用することができないものである。

したがって、控訴人らの当審における主張3もまた採用できない。

二  以上によれば、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 西島幸夫 原敏雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例